哲夫と真子。元々二人は愛し合う夫婦だったが
お互いのちょっとした行き違いからギクシャクしだしていた。
夫婦ともに社交的な性格で、男女隔てなく交流していた。
フットワークが軽く、
ちょっとした飲み会にも、
それぞれに気軽に参加しあい
知人からも「結婚してたの!?」と驚かれることもしばしば。
それほどに自由な空気を出していた。
朝食を食べはじめる二人、しかしそこには緊張が走っている。
「こないだ、静香が泣いてたから、抱きしめて慰めた、って話を噂で聞いたけど。
ちょっとやり過ぎじゃ無い?」
真子は目線を外しながらだが、語気を強める。
「うん・・、ちょっとこのままだと収拾つかないかな、って思って。」
「何の収拾よ。」
間髪いれずに真子が答える。哲夫の目を見る。
「その後、どうしたの?」
「いや、特に。それで終わりだよ。家まで車で送って終わり。」
哲夫のマグカップを持つ手がふらふらと揺れている。
「ふーん。収拾ついたの。」
「うーん。まあね。」哲夫は苦笑いをしてコーヒーを飲む。
「今もやりとりしてるんでしょ。」
「まあ、向こうから来ればね。」
「向こうからくれば、ねえ。」
真子はマグカップを両手でぎゅっとつかむ。
「そういうお前だって。こないだも今野くんと二人でカラオケ行ったって聞いたけど。
いい大人が二人でカラオケって。近所の目もあるから、ちょっとやり過ぎじゃない?」
「近所の目って、何よ。どこに近所の目があるのよ。」
「いや、まあ近所の目はどうでもいいんだけど。既婚者の男女二人がカラオケって、どうなのよ、ってことよ。」
「何にも無いわよ。」
「何にも無い、ってことないでしょ。すでに二人で楽しくカラオケしてるってのがどうなの?ってことよ。」
「わかったわよ。もう男の人と二人でカラオケには行かない。それで満足ですか?」
真子は、マグカップを強くテーブルに置く。
「そんなことを言ってるわけじゃないよ。」
「じゃあ今野くんともう二人では会わない、それで満足?」
「満足とか、満足じゃ無いとか、そういうことを言ってるわけじゃない。」
「哲夫だって、他の女を抱きしめておいて、妻に説教できるわけ?」
哲夫はだまりこむ。
二人は朝食をそのまま無言で食べ続けたあと、
身支度を終えて仕事へいった。